Agoraが精巧なモデルをつくり出せる理由
Agoraのモデルカー制作はたやすいものではなく、オリジナルのマシンをスキャンすることから始まる。
私たちは最高品質の機器とソフトウェアを使用する3D光学測定分野の専門企業、フィジカル・デジタル(Physical Digital)とパートナーシップを組んでいる。実際、フィジカル・デジタルは3D構造化ライトを使用した測定・検査について、Nadcap(旧称:航空宇宙工学および防衛関連企業向け国家認定プログラム(National Aerospace and Defense Contractors Accreditation Program))の認定を世界で初めて受けた企業である。
使用されるソフトウェアは、1967GT500スーパー・スネークのようなモデル制作だけでなく、医療、原子力、航空宇宙の分野でも採用されている市場トップシェアを誇る製品だ。
事実、このソフトウェアは人工衛星が適切に製造されているかを検査するにに使用されている。構成部材をスキャンしてCAD図面(部品の理想的な状態を示した図面)と比較し、物理的な精度をチェックする。
では、実際にスキャンはどのように行われるのか?ハンディスキャナーで車を単に走査するよりも、少し複雑だ。

3Dスキャンの原理。Agoraモデルが採用している方法では、精度を高めるためスキャンと並行して写真測量も行う(図提供:smartdesignlabs.com)
まず、いくつもの小さなターゲットマーカー(参照点シール)をマシン全体に貼る。これらのマーカーは、はじめは未知のコード化されていない点にすぎない。つまり空間内で未定義の点として存在しているだけである。

近日発売予定のAgoraモデルのドアに貼り付けられた、コード化されていないターゲットマーカーの例
次に、DSLRカメラで車の写真を何枚も撮る(最近のプロジェクトでは、100枚の写真を撮影した)。写真には光学式バーコードが割り当てられ、カメラのソフトウェアがそれを認識する。光学式バーコードの点を認識したソフトウェアは、光学式バーコード上の楕円の中心を探しながら、未知の点の位置を三角形に分割する。

写真測量は、写真から空間内の点の位置を特定し、スキャナーが正確なモデルを構築するのを助ける

車のボンネット上の光学式バーコード。カメラは光学式バーコードを使用して、コード化されていないマーカーにコードを割り当て、自動車の形状を点群(点の集合)として構築する

光学式バーコードやコード化されたターゲットマーカーをカメラのソフトウェアが認識する(上3つの写真、図の提供:physicaldigital.com)
点が空間内で固定され、既知となったら、次に車そのものをスキャンする。
スキャナーが3つ以上の参照点をとらえると、参照点が生成する一意のパターンを三角形に分割して、車のどの部分をスキャンしているのかが正確に把握できる。
次にスキャナーは、点の間の空間を埋めて3Dのポリゴンモデルを生成する。光はフリンジ状になり、これは基本的にブルーライトのすじで構成される。オブジェクト(ここでは車)は表面を通過する光を歪めるため、スキャナーはパターンから生じる青線と黒線のコントラストを検出する。

オブジェクトの表面に貼られた小さな丸いシールがターゲットポイントとなる。スキャナーはフリンジ状のパターンが生じさせるコントラストを検出し、3Dモデルを構築する。スキャナーはターゲットとそれが生成する一意のパターンを検出することで、オブジェクトのどの部分をスキャンしているかを正確に把握する。
精度の面でいえば、これ以上のものはない。
ほとんどのスキャナーやスキャンソフトウェアは参照点を使用しない。つまり、写真測量を採用していない。この方法では、Agoraとパートナー関係にある専門家はすべての点を空間内に固定する。
その利点は、常に写真測量で定義された固定点に戻ってスキャンが行われることにある。スキャンと写真測定が常に連携しているということだ。
写真測量なしでハンディスキャナーを使用する場合、唯一得られるフィードバックは「最良適合」だけで、またスキャナーに戻される。
これは誤差の問題を引き起こす。
フィジカル・デジタルの専門性を活用することで、車のスキャン中に、コンピュータのモデルが認識した点の位置とスキャナーがとらえた点の位置に誤50ミクロン以上のずれがあった場合、警告が表示され、誤差が即座に通知される。
ハンディスキャナーではこれが行なわれない。そうすると、誤差が積み重なっていく。例えば、全長4mの車の表面をスキャンしていて誤差が20ミクロンの場合、累積誤差は最終的に0.4mmになる。これを写真測量と組み合わせた場合の誤差と比較してみよう。直近のプロジェクトでは、誤差は平均して0.05ピクセル、つまり23ミクロンで、累積誤差は0.023mmだった*(ちなみに、平均的な人毛の直径は60~90ミクロンほど)。
これほどまで詳細なスキャンは簡単ではなく(ときには600mm3をスキャンしなければならないこともある)、課題もある。例えば、内装のスキャンはより複雑で、表面のデータを取得するには、カメラは500mm以上のスタンドオフ距離を必要とする。
そのため、できる限りさまざまな角度から撮影することが重要となる。

画面上で3Dモデルを構築。精巧なモデルづくりの第一歩として、コンピュータの画面上でスキャンを開始しているところ
またスキャナーが光をベースにした測定機器であるということは、表面の質感の影響を受けることを意味する。
光沢のあるマシンは光を直接反射するため、反射率を低減するため特別な磨きをかける必要がある。
Agoraチームのメンバーが1960年代の自動車(じきにAgoraモデルとなる)を最近スキャンした。スキャナーはブルーライトを使用しているため(ブルーライトは赤い表面ではよく反射しない)、赤い塗装がこの作業でちょっとした問題になった。
スキャン担当のエンジニアはその価値と希少性から、できれば車を磨きたくなかった。いずれ、どのマシンのことを言っているか分かるだろう。
スキャンのプロセスは間違いなく複雑で、専用のソフトウェア、ハードウェア、技術者を必要とし、車1台スキャンするのに、ほぼ1日かかる。
しかし制作の最初の段階で手間をかけることによって実現される精度を考えると、それだけの価値があると思う。

Agoraでは、モデル制作開始時に、このようなスキャン画像を専門家に作成してもらっている